大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)30号 判決 1981年2月13日
原告 田中喜一
被告 国税不服審判所長 ほか一名
代理人 浅尾俊久 西村省三 ほか二名
主文
一 西宮税務署長が原告に対し昭和四七年五月二〇日付でした原告の昭和四五年分所得税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(いずれも被告東淀川税務署長の異議決定により一部取消されたのちのもの。)のうち、総所得金額を二六三四万三一九〇円、分離長期譲渡所得金額を八五七三万八五八〇円として算出した所得税額及び過少申告加算税額をこえる部分を取消す。
二 被告国税不服審判所長が原告に対し昭和四八年一月一一日付でした原告の前項の各処分についての審査請求を却下する旨の裁決を取消す。
三 原告の被告東淀川税務署長に対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告に生じた費用の四分の一と被告国税不服審判所長に生じた費用を同被告の、原告に生じたその余の費用と被告東淀川税務署長に生じた費用の五分の四を原告の、被告東淀川税務署長に生じたその余の費用を同被告のそれぞれ負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判 <略>
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は不動産仲介業を営む者である。
2 原告の昭和四五年分の所得税につき、原告のした確定申告、西宮税務署長のした更正処分など、被告税務署長のした異議決定、被告審判所長のした裁決の経緯及び内容は、別紙1記載のとおりである。
3(一) 被告審判所長のした裁決(以下本件裁決という。)には、審査請求期間内になされた適法な審査請求を却下した違法があり、したがつて、原告は被告税務署長に対し本件更正処分等の取消しを求めるにつき適法に不服申立を前置したものである。
(二) すなわち、
(1) 原告は昭和四七年一月六日従来の住所地であつた宝塚市鹿塩二丁目七番二六号(以下旧住所地という。)から大阪市東淀川区十三東之町一丁目一九番地(ただし、古い住居表示である。)大阪ロイヤルアパート(以下新住所地という。)に住所を変更し、同所で生活をはじめた。
(2) そして、原告はその旨の転入届を行つた。
(3) 原告が住所を変えたのは、妻千代野との折合いが悪く別居したためであり、この事実は被告税務署長部下署員も了知していた。
(4) 原告は昭和四五年分の所得税についての更正処分等に対する異議申立を新住所地を管轄する被告税務署長に対し行い、被告税務署長はそれに基づいて異議決定を行つた。
(5) さらに、原告は昭和四六年分の所得税について確定申告期限までに新住所地を管轄する被告税務署長に対し確定申告をした。
(6) したがつて、異議決定書謄本の送達は、新住所地において行うべきであつた。
(三)(1) しかるに、被告税務署長は昭和四七年一〇月一四日旧住所地において異議決定書謄本を原告の妻に交付した。
(2) 右瑕疵ある送達というべきところ、原告は同月一七日妻から異議決定書謄本を受領したものであり、審査請求期間を遵守している。
4 本件更正処分等には、原告に属さない譲渡所得などを原告に帰属すると誤認した違法がある。
5 よつて、原告は本件裁決及び本件更正処分等の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3(一)の主張は争う。同3(二)の事実のうち、(2)、(4)、(5)の事実は認め、その余の事実は争う。同3(三)(1)の事実は認め、同(2)の事実は争う。
3 同4の事実は争う。
三 被告らの主張
1 次の事実によると、旧住所地も「送達すべき場所」に当たるといわなければならない。
(一) 原告は新住所地のアパートを昼夜を問わずほとんど留守がちであつた。
(二) 原告が京阪神の交通の要所にある新住所地のアパートを利用していたのは、大阪市内の病院への通院の便宜のため又は出張の多い原告の商用の便宜のためである。
(三) 原告は妻と婚姻継続中であつて、法律上はもちろん事実上も離婚の事実はなく、その話すら持ち上つていなかつた。
(四) 本件送達当時、原告に対する固定資産税の納税告知書は旧住所地に送達され、原告の妻が受領し、原告に到達していた。
(五) 原告が昭和五〇年九月一七日に提起した原告の昭和四二年分の所得税更正処分取消しの訴えの訴状には旧住所地が記載されていた。
(六) 原告の妻は本件異議決定書謄本を何らの異議も述べずに受領し、原告の主張によつても、原告はその三日後に旧住所地においてこれを現実に受領した。
2 <略>
四 被告らの主張に対する原告の認否及び反論 <略>
第三証拠 <略>
理由
一 請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 審査請求の適法性などについて
1 請求原因3(二)(2)、(4)、(5)の事実、(三)(1)の事実は当事者間に争いがない。
2(一) <証拠略>によれば、さらに次の事実が認められる。
(1) 原告は長年旧住所地において生活していたが、原告が先代から相続した土地などを処分したため妻ら家族との折合いが悪くなり、昭和四七年一月ころ、妻らと別居し、新住所地において単身で生活を始めた。
(2) 原告は、解決すべき土地問題などが残つていたため月に二回ほど旧住所地に赴くことはあつたが、同所に泊つたりすることはなかつた。
(3) 原告は淡路島で砂利採取業を行つていたので新住所地を留守にしがちであつた。
(4) 原告は昭和四七年一〇月一七日旧住所地において妻から本件異議決定書謄本を受領した。
(二) 被告らの主張1(三)ないし(六)の事実も、右認定を覆すには足りず(<証拠略>によれば、被告の主張1(五)の事実も、更正処分及び異議申立とも昭和四六年以前に行われた原告の昭和四二年分所得税に関するものであること、訴えの提起も昭和五〇年九月のことであることが認められる。)、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 右1、2の事実によると、原告の住所は新住所地であると認められ、他方旧住所地は居所など「送達すべき場所」(国税通則法一二条)に当たらないと認められる。
したがつて、原告が現実に本件異議決定書謄本を受領した昭和四七年一〇月一七日の翌日から審査請求期間を起算すべきであるから、前記認定のとおり昭和四七年一一月一六日になされた本件審査請求は適法であり、これを不適法として却下した本件裁決は違法として取消されるべきであり、また本件更正処分等の取消しを求める訴えは適法な不服申立を前置したものといわなければならない。
三 所得金額 <略>
四 結論
そうすると、本件裁決の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容し、本件更正処分等の取消しを求める請求は、総所得金額を二六三四万三一九〇円、分離長期譲渡所得金額を八五七三万八五八〇円として算出した所得税額又は過少申告加算税額をこえる部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 乾達彦 国枝和彦 市川正巳)
別紙1、2、3 <略>